普段の何気ない生活を支えている脳の機能と、それが困難になる疾病時における病態を、神経回路と脳各部のニューロン活動で理解したいと考えて研究を行っています。行動中のサルの神経活動の解析や微小電気刺激・不活化実験を中心に研究を行っていますが、光遺伝子学、化学遺伝子学の手法を用いた実験や健常人を対象にした心理物理実験なども少しずつ進めています。とくに、前頭葉皮質と大脳基底核ループ、小脳ループといった大域ネットワークによる情報処理に興味をもっています。現在進行中の主な研究テーマとしては、以下のものがあります。
時間知覚の脳内機構 数百ミリ秒から数秒程度の時間知覚は私たちの日常生活に不可欠です。主にヒトを対象としたこれまでの研究から、時間の情報処理には大脳とともに小脳や基底核が関与すると考えられています。しかし、そもそも脳内のどういった神経活動で時間が表現されているのかといったことについてさえ多くの議論があります。当研究室では、刺激が提示されてから一定時間が経過したことを眼球運動で報告するようにサルを訓練し(時間生成課題)、その神経機構を探っています。また、実験心理学でよく用いられているオドボール課題をサルに行わせ、周期的に提示される視聴覚刺激のタイミングを予測する際の脳各部のニューロンの活動を解析しています。
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状況に応じた行動選択 毎日の生活では、その場に合った正しい行動を選ばなければならない状況が数多くあります。これには大脳-基底核ループが重要と考えられており、統合失調症や注意欠陥多動性障害、パーキンソン病など多くの精神神経疾患・発達障害で困難が生じることが知られています。私たちの研究室では、視覚刺激に対する眼球運動の方向を事前に与えたルールに応じて切り替えるようにサルを訓練し、その際の視床や大脳基底核の神経活動と同部への薬物投与の影響を調べています。これらの脳部位には課題の種類によって活動を変化させるニューロンが多数存在し、その障害で衝動的な行動が増加することを明らかにしています。
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注意のトップダウン制御 脳はすべての感覚入力を等しく処理しているわけではなく、その一部を選んで優先的に解析し、外界の認識や行動の制御に用いています。これが「注意」の神経機構です。本研究室では、注意を特定の時間と場所に向けるための脳内メカニズムを調べています。これまで、前頭連合野のニューロンが注意を向けるべき物体のみならず無視すべき物体に対しても反応すること、同部の電気刺激で複数の物体の自由選択を人為的に操作できることなどを報告してきました。
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